それぞれのヨーイドンの合図で幕を開けたこのレースは自分が諦める時まで続いている。

　同じ世代のバンドマン、後輩のバンドマン、先輩のバンドマン。
僕たちはいろんな人たちと終わりのない、そして比べようのないレースを繰り広げ続けている。
　気持ちが切れた時、それはつまりバンドとしてのTHE ENDを迎える時だ。

　2014年にメジャーデビュー、2015年にメジャー1stアルバム『≒』を出し、2016年には武道館公演、昨年の2017年には2ndアルバム『THE END』を出し、幕張メッセ公演を含む最大規模のツアーも回った。バンドを組み立ての高校生の自分が見たら、目の玉が漫画くらい飛び出るような事実が今ここにはある。
　ただ不思議なもので、ずっとずっと心の一番取りやすい部分にある感情は「不安」だ。

　『THE END』ツアー後、 たくさんの夏フェスを終えて、自然とモチベーションが次のアルバムに向かっていた。どういうアルバムにするか、レーベル、事務所と話し合いを重ねていく中、僕らは少し間違った方向に進んで行く。どういう曲が今の自分たちに必要か、そのテーマのもと出て来た答えは、今思うと不協和音のように微妙に歪んでざらついていた。
　「もっと光を」の代わりになるようなみんなで歌えるネクストソング、「ロストジンクス」のようなライブで盛り上がるネクストソング。「Survivor」のようなソリッドでエモいネクストソング。今思うととても恥ずかしくなってしまうけど大真面目にこんなことを考えていた。間違っていた。根本的に。そして見失っていたと思う。いろいろ。
　結論から言うと、「人」が誰かの代わりになれないように、「曲」だって他の曲の代わりにはなれない。そんな当たり前のことを気づけずにいた。たぶん自分らが描くBLUE ENCOUNTの姿じゃなくて、誰かが描く、望むBLUE ENCOUNTになろうとしたからだと思う。
　阿呆らしい話かもしれないけどそれこそSNSだとかいろんな情報に惑わされ、踊らされていたのかもしれない。きっとそれに気づけないままアルバム制作に取りかかったらこのタイトルはついていないだろうし、それこそ時代に迎合したような作品になっていたはず。

　ターニングポイントとなったのは、「Bowline」ツアー。
　「Bowline」ツアーはバンドにとってのかけがいの無い財産になった。バカみたいに単純な言葉を選ぶと、「全部良かった」。これに尽きる（笑）。とにかく勉強になったツアーだった。先輩、後輩、同期全てを垣根なく招いたツアーはバンドにとっての未来に繋がる一歩になったと心から思う。

　このツアーを経てから取り組んだ制作合宿はすこぶる順調だった。
　いろいろなことに縛られることなくできていく新曲は、とても新鮮で斬新で時には懐かしくもなったり、ドキドキワクワクした。きっとその高揚感は、バンドを始めた時の感じに似ていたのかもしれない。新しい本を読み始めた1ページ目のような、まだ見ぬ世界の扉を開けて行くような感覚。

曲が出揃い、曲を絞り始めた。曲のラインナップや今のこのイケイケのモチベーション的にかなり絞ったスケジュールでその衝動をパッケージしよう！ となり、ものすごい短い期間でのレコーディングになった。

　ちょうどその時期は『VS』ツアー中。ライブを全身全霊100%やりきった後、ホテルでパソコンとギターを取り出しアレンジに取り組む、常に音に囲まれて生活していた。ギターの弦にぐるぐる巻きにされる夢を見たり、精神的にもおかしくなっていたかもしれない。無理が高じて4人中4人風邪に王手をかけた状態だった。とりあえず葛根湯やその他諸々、風邪対策グッズを一通り体に取り込み、鞭を打った。
　レコーディング1日目。対策虚しく辻とシュンが絶賛風邪をひいた。
　風邪をひこうが、鼻水が垂れようが、レコーディングの日にちが延びるわけじゃ無い。そして1日目を乗り切れば次は2日目がくる。つまりは帰ってからまたアレンジ作業を繰り返さないといけない。きっとレコーディング中の僕たちは『バイオハザード』に出てくるゾンビのようだっただろう。でもゾンビだったおかげで誰も途中離脱することなくしぶとく生き続け、着々とレコーディングは進んで行く。

　なんやかんや無事にレコーディングが終わった。そこから細かい編集作業が続いた。
　レコーディングエンジニアの高山さんとも何回も話し合いを重ね、編集に編集の日々。
　全部が完成したのは、1月の末。

　今でも何気なく聴いていると思う。
　これは自分たちなのかと。耳が驚きを隠せていない。
　ただそれと同じくらい心は高鳴っている。
　「不安」はやはり変わらずある。突然聴いてくれるあなたがいなくなったら怖いし、悲しい。ブームなんて簡単な言葉で日々いろんなものが最初からなかったみたいに消えて見えなくなっていく。そして次から次に新しいものが押し寄せてくる。不安はつきない、まぁでも、たぶん大丈夫。僕たちはいつでも新しいBLUE ENCOUNTを作れる。もちろん歴代最強のBLUE ENCOUNTを。今回の『VECTOR』が作れたことによって。1年後、2年後、5年後も、10年後も、バンドをやっていたい。他のバンドじゃ意味がない。このバンドを。その時々できっとこのアルバムは間違いなくハイライトになるだろう。
　BLUE ENCOUNTと書いて挑戦と読みたい。まだまだ叶えていない叶えたい夢に向かって、必死に手を伸ばし続けないといけない。
　4人だけじゃきっと届かない。事務所やレーベルのみんな。ライブを支えてくれる裏方チームのみんな、雑誌やテレビ、ラジオの力で応援してくれる関係者、それでもまだまだ足りない。
　その時に良かったらあなたの手も貸してほしい。高く高く振り上げた手の先に、バンドを結成した時からの夢、メジャーデビューしてからできた夢、たくさんのキラキラが待っている。お返しと言ってはなんだが、僕たちはいつでも最高で最強なBLUE ENCOUNTをあなたにめがけて全力投球で届けることを今ここに改めて約束する。
　その約束のひとつ目『VECTOR』をたくさん聴いて、機会があればライブにも遊びに来てほしい。

　レースはまだまだ終わらない。いろんな方向へ舵を切りながら進んで行く。
抜いたり抜かされたり、嫌になることも多いけど退屈が嫌いな自分にとってはちょうどいいのかもしれない。
　レースを始めた時は4人だった。上京した時に1人抜けて、3人になった。辻が入って4人になった。インディーズ事務所に入って少し人数が増えたけど、大人が信じれなくなった僕たちは再び4人になった。
　今のマネージャーである吉田さんと出会い、今の事務所に入って信頼できる大人が増え、メジャーレーベルに入ってたくさんの人と共に走れるレースは、とてもうれしく楽しい。
　きっとこれからもいろんなタイミングで出会いがあり、別れがあるだろう。1人だと諦めたくなる時もみんながいればがんばれる。
　あなたも、見届けてほしい、そして良かったら一緒に行こう。
　「最高を超える旅へ」

BLUE ENCOUNT 江口雄也

※この文章は『BLUE ENCOUNT ぴあ』に掲載されたものを抜粋したものになります。全文に関しては『BLUE ENCOUNT ぴあ』本誌にて是非お楽しみください。