「何歳になっても俺は無知だなぁ」
ファインダー越しの風景を見ながら漏らした言葉たち
カメラの知識がほとんどない。という意味の無知さはもちろんだ
しかしそういうことではなくて、
普段歩いてる道
その中に存在する沢山の未知なる景色
それらをファインダー越しにやっと見つけられた自分に対して言った言葉だった
当たり前の毎日には知らなかった新しい道があって
それに気づかず歩いてる
写真に限ったことではない
自分が選んだ現実の中に
自分が別れを告げた夢の中に
知らなかった道標がある
今だからこそ、
道を見つけるんだ
道を選ぶんだ
アルバム「VECTOR」の真意が、
シャッターをきる人差し指から心の深い場所にしっかりと伝達された気がします。
田邊駿一(BLUE ENCOUNT)
これは、僕の事だと思った。このアルバムの中で唄われているのは、別世界のロックスターの話ではなく、日常に生きている僕の様な人間の事なんだな、と。
日々の些少な事に一喜一憂して、毎日は窮屈になっていくけど、それでもテレビから流れてくる悲惨なニュースを憂いて平和を願ってみたり、自分がしている事が本当に正しいのか? という堂々巡りを繰り返している。
そんな毎日を暮らしている僕の事だと。だから、このアルバムを聴いて、浮かんだイメージを写真にして下さいというオファーに、全く怯むことは無かった。
まんまの僕を撮れば良い、このアルバムの音がある日常の、僕が見たものを撮れば良いのだから。それでも迷った時は、イヤホンから流れる音を聴きながら、田邊さんが見た風景を探した。
それは、陸橋の上に伸びる自分の影であり、夕暮れ時に遠くに見えた街の光であり、不意に見上げたなんて事のない青空だった。『VECTOR』というアルバムは、今の僕自身と真っ直ぐに向き合わせてくれた。最後の、「こたえ」という曲に今も僕は背中を押されている。
後藤倫人 (写真家)